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退職金の税務上の取り扱い

こんにちは、税理士の児玉です。今回は最近問い合わせが多い、退職金に関する税務上の取り扱いをまとめさせていただきました。

(1) 退職所得の意義
退職所得とは、所得税法30条第1項において、「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得をいう」と規定されています。過去の判例に基づくと、退職所得に該当するためには、次の3つの要件を満たす必要があるとされています。

① 退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること
② 従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること
③ 一時金として支払われること

上記の「これらの性質を有する給与」について、金子宏東京大学名誉教授は「雇用関係からの離脱には当たらないが、勤務条件および勤務内容に大幅な変更があったため、実質的にみて退職と同視しても不合理でないような場合に支給される給与を意味すべきと解すべきであり、その範囲はせまく限定的にとらえるべきであると思われる」との見解を示されており、形式的に退職の事実が無い場合においても、実質的にみて退職と同視できる事実関係(実質的に上記①~③の要件に類似する事実関係)がある場合、退職所得に該当することが考えられます(具体的な退職と同視できる事実関係(類似する事実関係)については後述の打ち切り支給を参照)。

また、退職金を年金として受け取る場合、上記の退職所得の要件のうち、「一時金として支払われること」の要件を満たさないため、退職所得とは見做されません。この場合、雑所得として計算されることになり、所得税や社会保険料の計算上で不利な影響が生じる可能性もあるため、留意が必要です。

(2) 退職所得の計算
退職金は、労働者の長年の勤務に対する報酬であり、定年退職後の老後の保障や失業時の生活保障のために一時的に支給されるものです。所得税法では、このような性質を考慮し、退職所得についてはその支給額全額を一時に課税するのではなく、勤続年数に応じた退職所得控除制度が導入され、また、収入金額から退職所得控除を差し引いた残額の1/2を退職所得として課税する軽減措置が採用されています(ただし、特定役員退職手当等や短期退職手当等に該当する場合は1/2控除が認められないケースもありますが、ここでは説明を割愛しています)。

具体的には、退職所得の金額は、原則として、次のように計算します。

(収入金額(源泉徴収前の金額)-退職所得控除額) × 1/2 = 退職所得

また、確定給付企業年金規約(DB制度)に基づいて支給される退職一時金などで、従業員自身が負担した保険料や掛金がある場合は、その支給額から従業員の負担分を差し引いた金額を退職所得の収入金額とみなします。

<参考:退職所得控除額>
退職所得控除額は、原則として、次のように計算します。

勤続期間20年以下:40万円×勤続年数(端数切上)
勤続期間20年超:800万円 + 70万円 × (勤続年数(端数切上)- 20年)

*同一年度内に2か所以上から退職金の支給を受けた場合、2か所目以降の退職金に係る退職所得控除の計算は、最も勤続期間が長い会社の勤続期間をベースに、その他の会社の勤続期間のうち重複しない期間を加算して勤続年数を計算します。

*退職金の支給を受ける年の前年以前4年以内(確定拠出年金の老齢給付金(iDeCoなど)は19年以内)に他の会社から受ける退職金がある場合、本年度に退職金の支給を受けた会社の勤続期間と前年以前に退職金の支給を受けた会社の勤続期間(みなし勤続期間)とが重複する期間の年数に基づき計算した退職所得控除相当額を、退職所得控除総額から控除した残額が退職所得控除額となります。したがって、複数の会社から退職金の支給を受ける場合、4年間の期間を経過しないで退職金を支給すると退職所得控除額の調整計算の対象とされ、不利になる可能性があります。

(3) 退職金の打ち切り支給
先述の通り、退職所得に該当するためには、「退職」という勤務関係の終了の事実が必要ですが、実質的にみて退職と同等の状況がある場合には、退職所得として取り扱うことが可能と考えられます。

所得税基本通達30-2では、退職の事実がない場合でも、退職所得に該当する給与が示されています(通達の詳細については以下のリンクをご参照ください)。

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/04.htm

一例として、役員の分掌変更がありますが、常勤役員が非常勤役員(例えば監査役)に就任するなど、役員としての地位又は職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の状況にあると認められる場合には、分掌変更時に支給される給与は退職所得に該当します。

なお、実質的に退職したと同様の状況とは、実質的に見てその法人の経営上主要な地位を占めていないことや、報酬が激減(50%以上減少)したなど、客観的な事実が必要となります。

実質的に退職したと同様の状況に関して、同族会社の代表取締役の場合、役員でありながら主要株主でもあるケースが一般的です。しかし、そのような場合、役員である取締役を退任した後も株主として経営に重要な影響を与えることになるかどうかという疑問が残ります。過去の判例では、主要株主として株式を所有している場合でも、取締役としての地位を辞任し、経営にも従事していない場合、役員を実質的に退職したと同様の状況とみなされ、株主としての地位を維持しているだけでは経営上主要な地位を占めているとは見なされないこととされています。つまり、役員としての職務を終了した後に株主としての立場に留まっている場合でも、株主権の行使は経営上の重要な役割を果たしているとはみなされないと考えられます。

(4) 退職金(使用人支給)の法人税法上の取り扱い
使用人に退職金を支給する場合、法人税法では特段の定めはなく、債務確定基準の要件を満たした日の属する事業年度の損金の額に算入することが考えられます。

この場合、使用人の退職の事実、退職金規定の有無によりその支給する退職金の額を合理的に見積もることができる場合は、当該退職の事実が生じた日に未払金計上した退職金の額は債務確定基準の要件を満たし、損金の額に算入することが可能と考えられます。

なお、役員と特殊関係にある使用人に対する退職金は不相当に高額な支給がある場合は否認される可能性があるため、留意が必要です。

(5) 役員退職慰労金の法人税法上の取り扱い
法人が役員に支給する退職金(業績連動給与を除く)の損金算入時期は、原則として、株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度とされています(例外として、法人が退職年金制度を実施している場合に支給する退職年金は、その年金を支給すべき事業年度が損金算入時期となりますので、退職した時に年金の総額を計算して未払金に計上しても損金の額に算入することができません)。また、法人が退職金を実際に支払った日の属する事業年度において、損金経理をした場合は、その支払った事業年度において損金の額に算入することも認められます。

当該役員退職慰労金は「適正な額」であることを前提として損金の額に算入することが認められていますが、「適正な額」とは、その役員の在任期間や、役職、報酬額に基づき役員退職金規程で計算された金額で、その法人と同じ業種で同程度の規模感の法人の役員に対する退職金の支給状況と比較して、妥当な金額であることが必要とされています。課税実務において役員退職金の妥当性を判断する基準として広く用いられているのが、功績倍率法といわれる方法ですが、次の算式により退職金の額を計算します。

役員退職金の適正額 = 最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率

税務調査では、退職直前に最終月額報酬が合理的な理由なく増額されていないか、功績倍率は役員退職慰労金規定で設定されている客観的な数字であるかどうか、他の業種と比較して不相当に高額な金額に設定されていないか、という観点から検証が行われるケースが多いです。

法人の経営状況が悪化し、役員退任後は会社の清算まで検討している状況において、退職金の支給が現実的ではないにもかかわらず、上記計算式の退職金の額を杓子定規的に未払計上することが可能であるか、実務上問題になることがあります。この点について、退職金の額が不相当に高額であるかどうかの論点の検討を行うと同時に、未払期間が長期に及ぶ場合は、実質的な退職年金として取り扱われ、一時に損金計上が認められる性質の給与ではないと取り扱われる可能性もあるため注意が必要です。

このような場合、退職金の額が確定した日の属する事業年度に未払計上により損金の額に算入するのではなく、実際に支払った事業年度において損金の額に算入する対応の検討も必要であると考えています。

*上記は当事務所の個人的見解・意見を述べるものであり、税務当局が税務調査において同じ結論に達することを保証するものではありませんのでご留意ください。

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