お知らせNews

法人成りの税務について

こんにちは、税理士の児玉です。暑い日が続いており、個人的には汗疹にうなされる日々が続いていますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。熱中症等の危険がありますので、くれぐれもお体にはご自愛ください。

さて、今回は個人事業を営むお客様からのお問い合わせが多い項目として、法人成りの論点について簡単にまとめさせていただきました。

(1)個人事業主の法人成りと資産移転の注意点

個人事業主が法人成りをする際には、いくつかの手続きが必要となります。個人事業の廃業届出書の提出、定款の作成、法人設立登記、社会保険への加入手続き、青色申告書の承認申請書の提出などがその一例です。これらの手続きは時間がかかるうえ、税理士、司法書士、社会保険労務士に対する報酬や登録免許税等のコスト(大体20-30万円程度)を見込む必要があります。

また、法人で事業を継続するためには、個人で所有する棚卸資産や固定資産を移転させるかどうかの検討も重要です。

個人が所有する資産を法人に移転させる場合、一般的には譲渡の方法で行われます。棚卸資産の譲渡は事業所得に該当し、固定資産の譲渡は譲渡所得に該当するため、それぞれ所得税の確定申告が必要となります。また、棚卸資産を法人に贈与する場合は、仕入価格と販売価格の70%のいずれか高い金額で収入金額を認識し、固定資産を贈与する場合は時価で収入金額を認識する必要があります。

なお、法人に固定資産を賃貸した場合は、当該賃貸料は不動産所得(または雑所得)として所得税の確定申告が必要となります。

また、売り手(個人事業者)が消費税の課税事業者の場合、譲渡価額に消費税を含めて請求する必要がありますが、買い手(法人)が消費税の課税事業者でない場合、買い手(法人)は消費税の仕入税額控除の適用を受けることができず、消費税分の損失を被る可能性が考えられます。このような場合、買い手側で消費税の課税事業者選択届出書の提出を検討する必要がありますが、移転資産に高額特定資産や調整対象固定資産が含まれている場合、将来の消費税納税義務の判定上不利になる可能性もあるため、慎重な検討が求められます。

(2)法人成りのメリット、デメリット

法人成りによる主なメリットとしては、以下の点が挙げられます。

① 租税負担の軽減:配当額の調整により累進課税を回避し、あるいは課税時期を繰り延べることにより、法人税率と個人の所得税率との差を利用して税負担を軽減できること。

② 親族への資産分配:個人の資金需要に応じて、利益の中から役員報酬や不動産賃料などを支出し、法人の課税所得を親族に分配・圧縮できること(親族への支払いが所得税と異なり損金算入可能)。

③ 給与所得控除の適用:役員報酬に給与所得控除を受けることができ、個人事業形態では認められないメリットを享受できること。

④ 諸経費の控除:法人の役員や従業員に対して福利厚生費などの諸経費が許容されること。

⑤ 退職金の支給:所得税法で優遇される退職金の支給が可能となること。

⑥ 消費税免税事業者:法人は2年間免税事業者となる可能性があること

上記を鑑みると、法人成りが望ましく思えますが、一方で、法人成りのデメリットとしては、社会保険料負担額の増加が考えられます。以下、簡単に事例で説明しますが、以下事例の場合、総合的な税金の負担は法人成りした場合の方が減少しますが、社会保険料の負担は法人成りした場合の方が増加していることが分かります。

例:事業所得金額が800万円ある個人が役員報酬を年800万円支給することにして法人を設立した場合

<税金の負担額(個人住民税、事業税は省略しています)>
(A)個人事業主の場合(法人成り前)
 800万円×23%-636,000=約120万円(事業所得に係る所得税額)

(B)法人の場合(法人成り後)
 ①法人税額
 (800万円-800万円(役員報酬))×30% = 0
 ②所得税額
 (800万円 – 190万円(給与所得控除)×20% – 427,500 =約79万円(給与所得に係る所得税額)
 ③合計税額(①+②):約79万円

※法人成りした場合、税負担が41万円有利

<保険料の負担額>
社会保険料の賦課標準額を上記の所得金額として初期的な試算した場合
(A)個人事業主の場合(法人成り前) 
 個人の国民健康保険料等の額(杉並区を例に、保険料負担額の上限はない前提)
 800万円×11.79%(国民健康所得割)+76,300(均等割)+16,520×12(国民年金) =約121万円

(B)法人の場合(法人成り後)
 法人の社会保険料の額(協会けんぽ、標準報酬月額は65万円を前提)
 195,780(月額保険料)×12 =約235万円(個人、法人負担額合計)

※法人成りした場案、保険料負担が114万円不利

(A)個人事業主の場合の税金+保険料 = 241万円

(B)法人の場合の税金+保険料 = 314万円

※結果的に、個人事業主形態の方が有利

以上のように、法人成りについてはメリットも多いですが、予想外に社会保険料が高額となり、税金の節税効果が相殺されてしまうケースも想定されます。また、法人は赤字の場合でも最低7万円の住民税の支払いが毎年必要です。

法人成りは税金や保険料を含めた総合的な検討が必要となるため、事前に税理士や社会保険労務士に相談のうえ、詳細な試算と将来の経済状況を考慮した計画に基づき判断することが重要です。

*上記は当事務所の個人的見解・意見を述べるものであり、税務当局が税務調査において同じ結論に達することを保証するものではありませんのでご留意ください。

お知らせ一覧

税務に関して
お気軽にお問い合わせください

お問い合わせフォーム